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【書評】銀河英雄伝説 – 流麗なる小説絵巻

不朽の名作、銀河英雄伝説

田中芳樹の長編シリーズ第一弾で、1981年にスタートしている作品ですが、文学作品(特にSF)は時代を経ても色あせません。

そんな折、銀河英雄伝説は2018年にご縁があり、銀河英雄伝説(略して銀英伝)を読むことになりました。
読む前の私のイメージとしては、非常に有名な作品で、面白い作品だろうなとは思っていましたがそれほど大して印象は抱いていませんでした。まぁどの本を読む前も、そうです。
そしてやはりと言いますかさすがにしびれる秀作でありました

SFの舞台を借りた純文学がここにある

読み始めると、これは中々に純文学ではないですかと思います。
これは田中芳樹の作風ではありますが、何かを表現するときに、常にと言ってもいい程の頻度で、比喩や抽象的な表現が使われます。

言葉の表現も、現代の人が使うようなわかりやすい単語ではなく、厳かな単語が非常に多く登場します。よって、これは「本好きのための小説」ですね。

我々日本人は、茶道や侘び寂びや暗黙知などの、趣きを言葉に乗せて遊ぶ事が昔から得意で、伝統文化となってきました(俳句、短歌)

そのため、本書から、なかなか日常では触れる事がない、教養的表現や語彙に出会うことになり、SFという舞台も相まって芸術的な別世界にトリップできるのです。

当初からすべてが終わった上で、語られている

本書の面白い前提として、語り部が回想として物語を進行する点です。
そうすることにより、読者がいる場面は、
物語のメインストリームである今ではなく、ずっと未来から歴史をたどっているような感覚になります。

あまつさえ、文中で若干のネタバレが起こっていて、
この人物はいつか裏切ることや、どこかで死を迎えるということが暗に示されていて、期待や悲しみや、その理由などを読者にいち早く想像させ、
色々な想いを沸き立たせる事となっています。

大衆ロマンとしての登場人物

読者は、おそらく「ヤン・ウェンリー」の居る場所を自分の母艦として読み進めるのではないかなと思います。

これは、ガンダムで言えば、ジオン軍ではなく連邦軍が正義と認識されやすいのと似ています。

視点が比較的、ヤン・ウェンリー側のものが多く(あるいは多くは無いのかもしれませんが)描かれているのと、
どうしても天才揃いや軍事国家であるギスギスした帝国(昔の大日本帝国時代の日本)より、
仮にも民主主義で、今の日本に近い体裁の自由同盟軍に共感を覚えやすいのかなと思います。

そうした、帝国と自由同盟軍の対立構造から、
ラインハルトを筆頭に、天才、秀才が多く存在し、全体としてスキがなく大きな問題や障壁がラインハルトのサクセスストーリー上おきない帝国と、

ヤンという(少なくとも軍事的にはラインハルトを上回る)天才を要しながら、結局は政治に振り回され、突き抜ける事がない自由同盟軍の中で、

ここの登場人物が、悪人も含めて、それぞれキャラクターを確立し、それぞれのエッセンスを物語に投影していく進行は、多少の窮屈さを覚えながら、この制約やもどかしさが小説の醍醐味だなと感じさせてくれます。

国のあり方やメリットデメリット

この物語のなかでは、独裁国家と、民主主義の対比も描かれており、
どちからというと、独裁国家の方が、シンプルでスッキリ物事が描かれています。

民主主義側は、その点どんでん返しが多く、不幸な運命に導かれています。

こうなると、もういっその事わかりやすく楽な独裁国家のほうが良いのではないか?と思ったりもしますが、
民主主義を上手くアップデートしていかなければ、戦争はなくならず、やがて自らを滅ぼす事になるなという発想に至りました。

また、中立というか、漁夫の利を狙って主だった物理的な力はないが、節目節目で時代を動かすフィクサーとしての地球教も、組織の清純化の形を連想されてくれます。

例えば、三国志や法律の三権分立といった、3という数字で自然と均衡が保たれる仕組みに落ち着くという所がここからも読み取れます。

人の危うさや儚さ、強さ、矜持を垣間見る

最初にこれは純文学であると結論づけましたが、
それであるがゆえに、芸術や美学といった世界に彩られているのも本書の特徴です。

儚さ

私は何度も、儚さを感じました。
「弱さ」ではなく「儚さ」です。
弱さと表現すると、まるで改善の余地があるような、逆の行動を取れればよっ買ったのではと言った感じがしますが、
それで物事は上手くいったのか?というのが言い切れないほど複雑であるため、仕方のなさという意味で「儚さ」という表現になります。それを多く感じる事ができます。

結果、なるようにしかならないな・・・という感情をかみしめることになりました。

強さ、矜持

登場人物の個人個人に、お多くの魅力的な長所と、多少の短所(致命的ではない)が用意されており、人間らしさを感じることができます。

そういったベースがある上で、個人ごとの自分に課せられた役割を必死に果たそうとする強さや、それを自分なりの矜持で咀嚼していく姿に趣きを感じます。

現代であれば、好きなことをやればいいじゃんってのが一つの正解だと思いますが、文中の世界では、どこか他人が敷いたレール上で自らの使命を全うするために行動しているように見える場面があります。

それぞれ責任感が非常に強く、誰も逃げ出したりしません。それ故に、いつどの場面でもある種の緊張の糸が張られていますので、読者の緊張の糸もそれに合わせて引っ張られることになります。

登場人物が美男美女や才能の宝庫で、耽美な世界に浸れる

登場人物は、ラインハルトを筆頭に、非常に特徴的且つ魅力的な人物として描かれています。美男美女が多く、それぞれの能力も高い。
※各国の幹部ですから能力が高いのは必然ではありますが

登場人物をそのままフランスの社交界に持っていっても通用するほどの百花繚乱です。
そしてそれぞれの発する言葉のユーモラスで気の利いている様は、現実世界では味わえない、なんとも耽美な世界を堪能することができます。

まとめ ヤン・ウェンリーという母艦を認識する

最後に個人的な余韻を感想としたいと思います。

私は、どちらかと言えば、自らの国や母艦はヤン・ウェンリーその人であったなと思いました。
(これは文中でもこのような表現があったと思います)

ヤン個人に同居する両面性

ヤンには常に背反する要素が見え隠れしています。そのため存在としては常に由来でいて、スキが多いので好き

  • アンニュイな人柄と、それに似合わず明晰な頭脳、
  • 実は燃えるような理想主義者である面と、権力欲の無さ
  • 諦観した処世感と、細部まで見通す力と実行力

多少このあたりは、実はラインハルト並に神格化されているなと思ったりもしますが、軍人としてのヤンは、人間性・能力として、ほぼ完璧です。

これは彼の死の直後ではっきりと条件がそろうのですが、
ここから・・・色は多少違えど、ラインハルトとヤンという反対の思想でありながら本当にお互いを理解し合えるのは世界中にこの一対だけでなのでは?と思わせる。
そんな事に想いを馳せながら結びとさせていただきます。

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